流浪の果て、オデュッセウスAは帰郷を決意する。故郷は天皇の勅命による発掘調査と歴史編纂事業のさなかにあった。人々の記憶にとどめられそうもない程の昔、勅命は発せられたのだった。天皇自身さえそのことは忘れてしまったに違いない。オデュッセウスAが到着すると、もうすでに発掘作業に従事している自分自身を発見する。彼は「オデュッセウスAダッシュ」を名乗り、オデュッセウスAの分身であると告げる。
故郷の土地から発掘され、作業者によって語られてゆくのはまるで異郷の歴史のようでもあった。あるいはまた、取るに足らない人々の営みのどうでもよい時間の断片であった。そして、何よりもそれは二十世紀のアウトダフェ(火あぶりの刑)による死者たち(たとえば原爆やアウシュヴィッツ絶滅収容所、チェルノブイリ原発事故の犠牲者たち)の失われた灰の記憶の困難な再現作業でもあった。隣国のミサイルが発射されると同時に天皇は崩御し、最期の言葉を伝令に耳打ちした。伝令はオデュッセウスAをめがけ走っているらしい。「何故、私か、私たったひとりに向けてなのか」と不思議に思う、オデュッセウスA。分身に意見を聞こうにも、Aダッシュは女作業員のグリージャと恋に落ち、闇のなか愛の営みにふけるばかりであった。
天皇の伝令はいったい何を告げるのか。発掘中止か続行か、それとも別の内容なのか。オデュッセウスAは伝令の到来を気にかけつつも、現前し積み重ねられてゆく行き場を失った廃棄物と死者たちの時間をどのように救済すればよいのだろうか。
作・演出:松田正隆
出演:武田暁/田中遊/F・ジャパン/枡谷雄一郎/山口春美/山本麻貴/牛尾千聖/宮本統史
2006年9月/伊丹公演 会場:アイホール 2006年12月/東京公演 会場:シアタートラム
[1][2][3][4][5][6][7][8][9][10] photo:東直子、青木司
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