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HIROSHIMA-HAPCHEON:二つの都市をめぐる展覧会text 2010/10.15  松田正隆

はじめに
わたしたちは来訪者を待ち受け、待ち望む。
この作品は来訪者と出演者とそれをとりまく場所によってはじめて成り立つだろう。
来訪者は、かならずしも生きている人間とは限らない。

①空間設定
広島の「平和記念資料館」と「原爆死没者追悼平和祈念館」をモデルにしている。
モニターが12本、吊り下げられており、各モニターの下(hypo)に出演者は立ち、二つの都市についての報告/演技をする。
モニターには文字が表示され、下にいる出演者を上部から定義づける。展示物にたいするキャプションの役割を果たす。

②出演者
出演者は、報告者であり演技する。出演者は二つの都市についてのことがらを述べる。その「ことがら」の報告行為の過程で、その内容に取り憑かれ、そのことを演技することになる。「演技する」としたとき、その徹底した動詞的存在はもはやそれまでの報告者としての「私」という主語を特定できない。にもかかわらず、特定の誰かとしてそこにいるのである。爆心におけるそこに横たわるものの擬態である。報告行為から演技存在への変容によって、その人の社会的あるいは時空間のおける立場/位相に「非人称性」「さけめ・ゆがみ」が出現し、その過程で出演者は新たな名前を得た誰かとして生まれてくる。

③二つのH都市/爆心とその周縁
HIROSHIMAには、かつて原爆が落ちた。そこにはたくさんのHAPCHEON出身の人々が住んでいた。HIROSHIMAは日本であるが、HAPCHEONから来たたくさんの移民も住んでおり、戦争が終わって彼らはHAPCHEONへと帰った。
HIROSHIMAには爆心地(hypocenter)がある。しかし、HAPCHEONにはそれはない。あの日、頭上で炸裂した原子爆弾の光はHAPCHEONへ帰った者たちの中(記憶として、あるいは身体の表面にかすかに覆われて)に刻み込まれたままであり、HIROSHIMAから遠い場所へと移動したのである。
私たちの<展覧会>架空のHIROSHIMA HAPCHEONには、爆心地とそこから遠く周縁にある者たちの「声」が集うのである。
出演者はその声を代弁する。そして、彼ら彼女らは報告/演技する。
しかし、私たちはそれらが近すぎて(爆心)、遠くて(周縁)その声を見失うのである。

④殺してはならない/殺さねばならぬときは殺すこともやむをえない
私の父は兵士であった。兵士は人を殺さねばならない。戦争時においては「人を殺してはならない」という命題は否定される。
原爆投下の正当性は、戦時下においては主張されうる。原爆投下という広島長崎の犠牲で多くの人々の命が救われた。その後、この教訓を生かし平和が持続するということになる。つまり、抑止力である。抑止力とは相手国の架空の死者を所有することによって、相手国に対して覇権を得ることであろう。殺人可能性による脅しである。そのときにHIROSHIMAとNAGASAKIはその人類平和の過去の実例として平和(だが核抑止力による)に貢献することになる。記念され人類の記憶に留まり続ける。

⑤もうひとつの「二つのH」。
hypocenterとhypostase
爆心hypocenterとそこに横たわることhypostase。
爆心を故郷とし、そこに、なにものでもないものとして存在すること。
なにものでもないものとしてhypo(下に)「ある」ということ。名付ける者ではなく、名付けられ続け名付けようのないものとなるまでそこにあり続けるということ。
出演者が報告者から演技的存在へ変容することはhypocenterにおけるhypostaseである。

⑥報告と演技
<ソロ>
生実 「広島を歩く」
川面 「ヒロシマについて考える会」
桐澤 「生きているヒロシマ」「見る/見られる」
黒坂 「エノラゲイ」
児玉 「広島日記」「ハプチョン日記」
駒田 「ハプチョンのユウさん」
島 「広島の七つの川」
西山 「8月4日の平和公園の描写」
恵子 「ヒロシマガール」 
春美 「48時間と20分」
<アンサンブル>
桐澤、春美 「生きているヒロシマとるるぶ」
生実、島 「対話」
駒田、西山 「ヒロシマについての対話」
恵子+α 「夾竹桃」
武田+α 「24時間の情事」 
その他

⑦構成

⑧音声ガイド
武田によるガイド

⑨参考文献
「広島記憶のポリティクス」米山リサ
「原爆文学という問題領域」川口隆行
「原爆の記憶 ヒロシマ/ナガサキの思想」奥田博子
「ヒロシマを持ちかえった人々 韓国の広島はなぜ生まれたのか」市場淳子
「PARK CITY」笹岡啓子写真集
「この世界の片隅で」山代巴編
「ヒロシマ私の恋人」マルグリット・デュラス 清水卓行訳
「長い時間をかけた人間の経験」林京子
「ベンヤミン言語一般および人間の言語についてを読む」細見和之
「実存から実存者へ」エマニュエル・レヴィナス 西谷修訳