演劇の帰り、フロアのことを考えていた(断章)|高山真
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場面① 下高井戸シネマとマレビトの会
今年の春、下高井戸シネマで映画『Sharing』を観た帰り道、なんかDJやろうと思った。自分も生産する側にいようと感じた。マレビトの会『皿の上の見えない人間』を観た後も同じ感覚があった。
最終日の上演をみた。松田さんから、こんど久しぶりに上演すると聞いて、なんとなく行ってみようと思った。前日まで家族と伊東に旅行に行ってた。三鷹はいつぶりだろうか。長男の出産を控えた妻が、カオマンガイを食べたいというから、三鷹の店を探して以来。タイカレーがおかわり自由のいい店だった。店員のお姉さんが綺麗だと妻が話していた。
三鷹までのバスで、DJ SNEAKのミックスを聴いていた。長崎のラウンジでDJしてた頃に、よく聴いた。池袋のknotのDJで、小箱で効く音の感覚を掴めた。フロアの反応をみながらミックス。やっとここまできたって思ったのは、DJ SNEAK「We all need love」だった。その感覚を忘れないように。初めての場所、新しい出会いで少し緊張する。ハウスのキックが精神を和らげる。今もそうだ。軸のようなものを保ってる感じ。
駅前のパチンコ屋で一服して、SCOOLへ。道に迷う。警察に聞く。警察に聞いてどうすんだって思いもある。上演開始の間際、最前列の端に。
場面② 六甲おろしが降りてくる
上演が始まる。目の前に人がいて、その人が、自分の前で、何かを演じようとする。どういうふうに観ればいいのかわからない。しばらく体験してなかった時間が始まる感覚。松田さんが有田や伊万里を訪れたこと。ポッドキャストで聴いてた。このペースでいいんだ。そんな感じ。五山送り火のどこかの山から転げ落ち、宝ヶ池に落ちるエピソード。そこにある本気さと、どこか突き抜けた面白さが混在して、ほっとする感じ。演劇のことはよくわからない。
「皿の上の見えない人間」。草笛を吹く人物が「六甲おろし」を二度吹く場面が印象に残ってる。一度目の音が鳴った瞬間、何かが降りてきた。なぜ、六甲おろし。演出の意図を一瞬考えようとしたけど、あまり考えていない。日記に書いた。
六甲おろし。応援団が演奏する「1-9」からの六甲おろし。久しぶりに神宮のオープン戦で外野に入った瞬間にトランペットで演奏される大山のヒッティングマーチ。忘れていたものを取り戻すような感覚。ガラの悪い合いの手を入れる、年季の入ったおっさん二人の罵声に近い声。
まだ長袖の季節に、神宮のレフトスタンド。ヤジは飛ばさないけど、外野でメガホン叩いて歌う六甲おろし。よくわからない気分にさせる力がある。

場面③ Your Love
池袋knotでDJ。J Paul Getto「Tribute to Paul Johnson」から。TraktorのBPMがずれて焦る。反応がちょっと怖い。体に来る音。現場に対応させてくる感じ。Strip Steve「Dancin’ (Ian Pooley Remix)」へ。
Plus MindでラウンジDJをしていた頃、番長格のロックDJがブース前のソファに陣取った。ちょっとビビる。ヒップホップな雰囲気の兄さんが、「Dancin’ (Ian Pooley Remix)」に反応してる。ソファに座っていても、身体が反応する音楽。
ディスコへの回帰。Alexander Technique, Todd Terry 「My Game」。踊らせる意志を感じる。新座からバス停まで歩く道。原始的な太いキック。ダイレクトに来る。どうやって作るのか。何かが始まる予感。
四つ打ちのパターンは微妙にズレる。一瞬音が消えて、抜群のタイミングでキックが入ってくる。入り方にやられる。体を揺らし続けるパターンを知り尽くしてる。アンダーグラウンドな雰囲気。暗闇の中で、ストロボライトだけが点滅しているフロアでダンスが生じる。
Inner City「Pennies From Heaven」、ハウスミュージック。シカゴにも、デトロイトにも行ったことない。英語もろくに話せないし、歌詞もわからない。この曲は届いている。何を訴えているかはわかる気がする。
イントロで全てが決まる。「Pennies From Heaven」から「Your Love」のイントロをミックス、フミくんが拳を上げてブースの前に。同い年の友達。同じ機材を使ってることを話した。彼が拳を上げてブースに来た風景だけは、はっきり残ってる。
「Your Love」、knotでかけるならイントロだけ。あのイントロをここでかけたかった。不思議な感覚もある。それまで知らなかった、おそらく、この場所がなければ出会わなかった友達が「Your Love」に反応する。それだけで十分だ。体ごとのってくる。
Hilit Kolet & The Illustrious Blacks「Transatlantic Kiki」、これで文句あっか。

場面④ 自分は馬鹿だ、そしてそれが私だ
スポーツクラブで泳いだ後、ワーキングスペースで、1985年の阪神の応援を再現する兄さんのYouTubeを見た。3回リピートした。3回でやめた。六甲おろしの冗長さ、正しい気がする。どこかの河原で、一人でトランペットを吹き、太鼓を叩く兄さんの多重録画と多重録音。知らない人が、知らない場所で、同じリズムを反復する。
4発、2発、1−9、六甲。微妙にずれていくトランペットがかっこいい。バースの破壊力。
バースかっ飛ばせ、バース、ライトへ、レフトへ、ホームラン。
小学校2年の記憶が蘇る。京都のマンション。弟と過ごした時間。彼はもういない。だけど、バースは心の中にいる。弟と最後に遊びに行ったのは神宮の阪神ヤクルト。レフトスタンド最上段でメガフォンを壁に打ち鳴らす弟。帰りに行った中華料理。
レフトスタンドに陣取る応援団、急逝した選手の名前を絶叫し、ありがとうと連呼するおっさん。戦力外通告された選手のユニフォームを着て、レフトスタンドで食べる焼きそば。外野席に入った瞬間、目に入る黄色一色のスタンドと、太鼓とトランペットの音、ゆらめく応援旗、はっきり言って、勝っても負けてもどちらでもいい。阪神が存在しているだけでいい。
このような体験を書こうとしている自分は馬鹿だ、そしてそれが私だ。
高山真(たかやま まこと)
立教大学現代心理学部映像身体学科准教授。専門はエスノグラフィ、ハウスミュージック。