夜の住宅街を散歩していると目につくのは、煌々と光る「窓たち」の姿だ。窓の中の、誰とも知らない人々の生活を想像しながら歩くのは楽しい。缶ビールでも飲みながら。他の何にも似ていない日常が、そこでは繰り返されている。
私は映画を制作するにあたり、広島市街に滞在し毎日のように川沿いを歩いた。川はいくつもの「窓たち」の姿を反射させ、眩いほどに光を放ちながら瀬戸内海へ向けて静かに流れていた。かつて、その「窓たち」が一瞬にして光の中に消えていった事実を思いながら、ひたすら川沿いを歩き続けた。そこから掬い取ったイメージを元に、断片的な詩を書き、映画のプロットを立ち上げていった。
日常とは楽しいことばかりではない。それでも、窓の中の風景が、あらゆる暴力と対極に位置する場所として存在し続けることができたら、と思う。